H-MRS
より低侵襲で確実な前立腺がん診断を目指して

図1
前立腺がんの確定診断は前立腺針生検がgolden standard (最も信頼できる方法) ですが、前立腺内のがんに生検針を的確に刺すことができなければ、がんを発見することはできません。前立腺生検本数を増加させればがんを見逃す可能性は低くなりますが、合併症の数も増えます。より低侵襲な前立腺がんの確定診断方法はないか?われわれ泌尿器科医の大きな願いです。従来用いられている超音波、PET-CT、MRI は前立腺がんに対して用いられる低侵襲画像診断法ですが、感度が低く診断には不十分です。対して、1H-MRS は生体内の代謝情報に基づいた診断法であるため、形態と信号強度に基づいて行われる従来の画像診断とはまったく異なる情報を得る事ができます。正常前立腺細胞内ではクエン酸が消費されず細胞内に貯留するのに対して、がん細胞ではクエン酸回路による代謝が活性化するため細胞内のクエン酸は減少します。さらにがん細胞では、活発な細胞膜合成と破壊を示すコリン含有物質が増加しています。したがって1H-MRS では、正常前立腺の場合、クエン酸のピークが高くコリン含有物質のピークが低い(図1a)、逆に前立腺がんの場合、クエン酸のピークが低くコリンのピークが高くなります(図1b)。よって、コリン含有物質とクエン酸のピークの比率〔Choline + Creatine/Citrate ピーク域比率(CCr 比率)〕は、前立腺がんの良い指標となると考えられます。われわれの基礎検討では、全摘標本にがんを認めない部位のCCr 値は0.75 ± 0.16 であり、がんを認めた部位のCCr 値は1.40 ± 0.20 であったことから、前立腺がん診断におけるCCr 値のcut off value を非がん部平均+2SD である1.07 に決定しました(図2)。実際にこの値を超える部位を赤色で示してみると、全摘標本で病理学的に確認した前立腺がんの部位(図3a)と良く一致していることがわかります(図3b)。

図3

図2
前立腺針生検との併用でより確実に 治療効果判定、再発の評価にも
次に、実際の症例において前立腺針生検とMRS を組み合わせることによって前立腺がん診断の正診率が上がるかどうかを全摘標本と比較検討しました。全辺縁領域を図4 に示された12 領域に分割し、各小領域を単位に前立腺がんの有無を、生検、1H-MRS、両者併用の3 群での感度、陽性的中率、正確性を検討した結果を図5 に示します。感度、陽性的中率、正確性ともに生検と1H-MRS の併用が最も高い成績を示しました。
われわれは現在、前立腺がんに対するHIFU、放射線療法やホルモン療法といった各治療前後に1H-MRS を行い、実際の症例における治療効果判定、再発の評価に用いています。

図5

図4



